イスラムvs中国〜ウルムチ事件

  • 2009/07/15(水) 12:35:48

2009/7/15付 世界日報12面 【ビューポイント】
犠牲者数多いウルムチ事件

漢族と民族対決の様相
国家統合問題に波及の恐れ
拓殖大学名誉教授 同海外事情研究所客員教授 茅原 郁生


 新疆ウイグル自治区で発生した集団抗議事件(ウルムチ事件)は、ついにラクイラ・サミットに出席中の胡錦濤国家主席(胡主席)の帰国にまで追い込んだ。これは昨年春のチベット・ラサ市内での流血事件が欧米での北京オリンピックの聖火リレーへの反対行動に結びついたのに続く、中国の少数民族問題が国際化した事件である。

 ウルムチ事件は、既報のように今月5日夕からウルムチ市でウイグル族による漢民族の商店の襲撃などの大規模な騒擾事件であった。今次ウルムチ事件の背景は複雑であるが、直接原因は6月の広東省の玩具工場でのウイグル族青年撲殺事件への報復と見られている。この事件について中国の少数民族問題だけでなく国家体質や国際性の観点から見てみたい。

 まず一つは、ウルムチ事件で中国の民族宥和が綻び始めたことである。これまでの少数民族の騒動は官憲との対立という構図であったが、ウルムチでは7日に漢族の1万人規模の報復的な襲撃行動が起き、民族間の蔑視と憎悪の対決という事態となった。

 さらに民族宥和を困難にしているのが、中国政府の情報戦で漢族が犠牲者という図式の宣伝で、ウイグル族を追い込んでいることである。中国当局は、昨春のチベット事件の教訓から迅速なメディア広報を進め、外国メディアに対して現地の取材を許した。しかしそこには「悪いのはウイグル族」のプロパガンダ臭がつきまとう…

 今回の騒擾事件の特色は、規模や時間に比べて死傷者数が多いことで、犠牲者は漢族だけかの疑念が残る。この事件をウルムチ市長は“7・5”事件として「156人死亡(後に184名)、1080人負傷、260余両の自動車と209店舗が被災(中新網7月8日)」と発表した。しかし提供された画像からは犠牲者の漢族、ウイグル族の内訳や死傷の原因などは不明である。公開されないウイグル族の鎮圧現場では、相当に手荒い手段が行使されたのではないか、と疑問が浮かぶ。

 先に、貴州省で起こった2万〜3万人の暴徒が警察署などを襲撃した事件で出た死者は5名と伝えられた。この比率で見れば156人の死者が出たウルムチ事件は100万人規模の騒擾という計算になるが、公安局筋は「数千人の暴徒が破壊、焼き討ち、略奪を行った」と発表し、亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」は「市内4カ所で1万人が平和的デモで不満を表明」と発表している。

 そうであれば10人に1人強の割合で死傷者が出たことになり、この不自然なまでに多い犠牲者数について死傷の被害状況の詳細など信頼性の高い公表が待たれる。

 中国では秋に建国60周年の慶事を控えて国内安定が重視され、インターネットや携帯電話は当局によって管理されていたと想像される。今回の騒乱の規模、時間帯に比べて極端に多い死傷者数を発生させた事件の実態の情報公開が待たれる所以である。

 もう一つが、胡主席がサミットの外交舞台から急遽帰国した意味である。胡主席の帰国はトップの決断を必要とする中国特有の危機管理体制の問題とサミット参加の各国首脳からウルムチ事件に関わる人権、民主主義などの批判や非難をかわす目的と見られている。

 前者に関しては、統治機能が縦割りの中国にあって、広範で深刻な危機対処にはトップの裁断が必要とされると見られている。実際、08年5月の四川地震の際に温家宝総理が出張先からその日のうちに現場に急行して陣頭指揮に当たった前例があるが、単に美談を超えて復旧工事、救急医療、救援物資の配給、治安維持などを一元的に現場で指揮する必要がある縦割り行政システムのせいとされている。

 今次ウルムチ事件も、単なる縁辺地方の民族問題を超えて、漢族の反撃デモなど民族対決の様相を強めた国家統合問題、ひいては安全保障に波及しかねない危険性を秘めていたからであろう。今次ウルムチ事件はウイグル族の鎮圧や治安維持だけでは済まず、これまでの少数民族対策、経済格差問題、生活文化や民工潮などが絡み、また治安機関も武装警察部隊だけでなく解放軍や生産建設兵団などの動員も絡んでこよう。

 さらに対処を誤れば同自治区のカシュガルなどからチベット、内蒙古などの他の少数民族地域の自治権の拡大や独立運動に波及する可能性を秘めており、中国の中央集権統治の制度や共産党独裁体制の問題点にまで関わってくる。

 国際性に関しては、今次サミットはG8だけでなくBRICsなど新興国との協議が重視され、胡主席の対応が注目されていた。実際、中国は世界的な金融危機に対して57兆円もの内需拡大策を進めるなど、景気回復の牽引車と見られている。晴れの国際舞台からの退席で胡主席はメンツを失っただけでなく、実質的にも国益が阻害されたことになり、国内問題が中国の国際的な発展のブレーキとなったことになる。

 ウルムチ事件には改革開放30年の負の遺産として少数民族と漢族との経済格差を拡大させた遠因があり、強権力で押さえ込むだけでなく少数民族への和諧政策などの抜本策の必要性を浮き彫りにした。

The Sekai Nippo Co.,Ltd. 1975- Tokyo,Japan




2009/7/14付 世界日報3面より
新疆での虐殺を非難
ウイグル自由人権アジア委員会が緊急声明
 中国に対し断固たる姿勢を


 中国新疆ウイグル自治区で発生した暴動を受けウイグル自由人権アジア委員会(イリハム・マハムティ世界ウイグル会議日本代表ら共同議長)は13日、有楽町の外国人記者クラブで中国でのウイグル人虐殺を非難する緊急声明を発表した。

 中国治安部隊の武力弾圧や中国人暴徒らにより虐殺されたウイグル人は、5日から13日まで最大3000人に及んでいるという。

 同委員会共同議長の一人である評論家の石平氏は、「ウイグルで起きた平和的な抗議デモに対し、武装警察は最初、空に向かって威嚇射撃をし、さらに水平撃ちを始めて有無を言わせずウイグル人多数を虐殺した。それに怒りを感じたウイグル人たちが暴動を起こしたことで、中国政府による弾圧と中国人暴徒による暴行の犠牲になったというのが基本的なシナリオだ」とし、中国政府がいう犠牲者184人の数も約4分の3が漢族だというのも「プロパガンダ」だと批判した。

 さらに石氏は「ヒトラーの野望を野放しにしたのは、英仏の沈黙だった」と述べた上で、「中国に対する断固とした姿勢こそが、世界平和への最善の道」だと強調した。

The Sekai Nippo Co.,Ltd. 1975- Tokyo,Japan

 2009/7/13付 1面より
「虐殺やめろ」とデモ行進
 在日ウイグル人ら 中国大使館前で抗議−東京


 「中国は虐殺をやめろ」「フリーウイグル」。中国新疆ウイグル自治区ウルムチで発生した暴動をめぐり、在日ウイグル人ら約130人が12日、東京・元麻布の中国大使館前で抗議のデモ行進をした。デモは同自治区の分離・独立を象徴する「東トルキスタン」の旗を掲げ、中国当局に対し、ウイグル人弾圧をやめるよう求めた。

 この後、渋谷区の宮下公園で行われた抗議集会では、桐蔭横浜大学のペマ・ギャルポ教授(56)が「中国当局が言う犠牲者184人というのは、デモ隊によって殺された人たちのことだと思う。しかし、ウイグルの人たちによれば軍隊が殺した数は1000人近くに上るという。こういう状況にこそ、世界の怒りがあってしかるべきだ」と訴えた。

 同集会ではスカイブルーの「東トルキスタン旗」だけでなく、チベットの「雪山獅子」旗や「モンゴル旗」などが翻り、中国で抑圧を受けている少数民族が新疆暴動を契機に結集した形に。抗議集会の後、改めて約500人が宮益坂下通りなどをデモ行進し「フリーウイグル」などのシュプレヒコールを繰り返した。

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2009/7/12付 世界日報5面より 
「同胞虐殺」に怒り トルコ「新疆ウイグル暴動」で
  イスラム世界で反中拡大


 【エルサレム11日時事】中国新疆ウイグル自治区の暴動で多数の死者が出た事態を受け、ウイグル族と歴史的に関係が深いトルコで「中国当局が同胞に対する虐殺行為を働いた」と怒りが広がっている。ウイグル族の多くはイスラム教徒で、混乱が続けば、イスラム世界全体で反中感情が高まる恐れもある。

 エルドアン首相は10日、「中国での事件は大虐殺だ」と強く非難。閣僚からは中国製品をボイコットすべきだとの声も出ており、これまでに国会議員100人以上が中国との友好議連から脱退した。反発は住民レベルでも広がり、イスラム教の金曜礼拝が行われた同日、各地のモスク(イスラム礼拝所)で群衆が抗議行動を展開した。

 トルコが敏感に反応する背景には、民族や言語上のつながりのほか、中国当局の対ウイグル族政策に不満を抱くウイグル系住民が政界などへの働き掛けを強めているという事情もありそうだ。

 自治区では10日の金曜礼拝が中止されるといった、信心深いイスラム教徒にとっては受け入れがたい事態も起きている。混乱が続けば、トルコのような強い反発が他のイスラム諸国に飛び火する可能性も否定できない。

The Sekai Nippo Co.,Ltd. 1975- Tokyo,Japan


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